2011年07月28日
『メメント』をめぐるウソのようなホントの話

今から10年前、当時、国際通りにあった国映館で
その映画は封切られていた。
21世紀になってすぐの少し肌寒い冬の夜だったが、
31歳の若き気鋭の監督、クリストファー・ノーランが作った
今まで観たことのない斬新な映画との前評判につられて、
僕は期待に胸を膨らませて、オールナイト上映の
その映画『メメント』を観始めた。
この映画の主人公は記憶障害によって、
10分間しか記憶を保つことができない。
物語も約10分間のシークエンス毎に過去に逆行してゆく。
その大胆な構成と、全く先の読めない展開に、
ぐいぐい引き込まれていく・・・。
その事件は映画の中盤あたりで起こった。
スクリーンが真っ暗になったまま、
何も映らなくなったのだ。
30秒、40秒、1分、次第に場内がざわついていき、
2分ぐらいたったあたりで腕時計のライトを点けて時間を見てると、
後ろのドアからスタッフらしき男性の声で、
「すみませーん!ただいま停電となっておりますので、
もうしばらくお待ちください!」
非常灯まで消えて、文字通りの真っ暗闇。
それに耐え切れない人たちが、
次々に席を立ち、僕もそれに続いた。
薄暗いロビーに出ると、その向こうの玄関あたりで、
心配顔で外をうかがう映画館のスタッフジャンパーを着た男性と、
制服姿の若い女性スタッフと、4、5人のお客さんがいた。
僕もちょっと外に出てみると、目の前には
不思議な光景が広がっていた。
国際通りの向こう側の電気は点いてるのに、
道路を挟んでこちら側だけが停電していた。
観光客らしき一団が立ち止ってあたりを見回し、
タクシーもスローダウンして運転手が顔を出している。
戻りかけたところで、
ロビーの照明がパッと点いた。
「映画を再開しますので席にお戻りくださーい!」
さっきの男性が声を張り上げた。
明るくなった場内の、元の席に戻り、
すっかりぬるくなった紙コップのコーヒーを飲み干すと、
ゆっくりと照明が落とされていく。
ふと腕時計に目をやると、停電してからちょうど
≪10分間≫経っていた。
映画『メメント』が再開され、
再び主人公の
≪10分間≫の苦悩の物語が始まった。
Posted by TURBO2035 at 00:07│Comments(0)
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